2004年の作品『ウィスキー』を紹介します。
舞台はウルグアイの町。
都会でもなければ、田舎でもない。
主人公のハコボは、父親から譲り受けた靴下工場を営む、
中年の男性。
毎日、同じ時間に工場を開け、
毎日、同じように不調な工場内を修理し、
毎日、同じ時間に工場のシャッターを下ろして、帰途につきます。
そして毎日、ハコボがシャッターを開けるより前に、
工場の前で彼を待っている中年の女性、マルタ。
マルタもまた長くこの工場で働き、
毎日、同じ時間にタイムカードを押し、
毎日、同じようにハコボにお茶を入れ、
毎日、同じ時間に他の従業員たちを送り出します。
物語は、ハコボの弟、エルマンから、
母親の墓参りにそちらへ行く、
という知らせが来たことで始まります。
弟エルマンは、ブラジルで靴下工場を営んでいるのですが、
ハコボのような不調続きの小さな町工場ではなく、
最新設備の大工場で、経済的に成功を収めています。
工場長と従業員、という関係だけで、
必要以上の会話を交わすこともなかったマルタに、
ハコボは、この弟が来る間だけ、
夫婦のふりをしてほしい、と頼むのです。
ここで予想されるような、とまどいや混乱、驚きは、
マルタには生じません。
マルタは一瞬考えた後で、すんなりと、
事情は分かっているから、と、その提案を受け入れます。
この先は映画を見ていただきたいのですが、
タイトルにもなっている「ウィスキー」は、
写真をとるときの、「はい、チーズ」です。
つまり、作り笑いをするときの合図、
笑おうとして笑うときの言葉です。
3人の関係は、最後まで何かが起こりそうで起こりません。
何も、何も、起こらないまま、
エルマンはブラジルに帰っていきます。
しかし、物語の最後、私は、
何かが決定的に起こってしまった、
あるいは、変わってしまった、
もしくは、全てが絶望的に終わってしまったのだ、
という印象を受けました。
大きめのレンタルDVD店などで探してみてください。
『ウィスキー』(WHISKY)
2004年、ウルグアイ=アルゼンチン=ドイツ=スペイン合作
監督:フアン・パブロ・レベージャ、パブロ・ストール