2019年4月27日土曜日

GW中の読書に!? 2018年度の書籍紹介その1

10連休の初日、午前中に会話中級クラスを終えて、イスパニカもGW休暇に入らせていただきます。

連休中に本を読もうかな……とお考えの方もいらっしゃるでしょうか。ご参考までに、下はNHK語学テキスト『まいにちスペイン語』のInformación欄で2018年度に紹介した書籍の一覧です。

まずは前半、2018年4月号から9月号まで。

※各書籍の画像をクリックすると、Amazonのサイトにリンクします。





<2018年4月号で紹介>

『ゆかいなセリア』(エレーナ・フォルトゥン著、西村英一郎・西村よう子訳、彩流社、2017)



スペインで「セリアのような女の子」と言えば、活発で理知的で想像力豊かでちょっと大胆な、この本の主人公のような女の子のこと。1928年、新聞に第1話が掲載されて生まれたマドリードに暮らすセリアの物語は、その後何冊ものシリーズになりましたが、これはその第1作目。原題はCelia, lo que dice(セリアの主張)。7歳でも自分の考えを筋道を立てて考え、伝え、時には大人を驚かせる彼女の言葉に、耳を傾けてみませんか。


『新オリーブオイルのすべてがわかる本』(奥田佳奈子、筑摩書房、2017)



スペイン土産としても人気の高いオリーブオイル。この本は、オリーブオイルをとことん楽しむためのハンドブックとして、レパートリーをひろげるヒント、おいしいオイルの選び方、探し方、歴史、物語、そしてなぜ健康によいかという理由まで読むことができる。そして、「世界のオリーブ産地」として最初に紹介されているのがもちろんスペイン。オリーブオイルを知ることは、スペインを知ることでもあるのだ。


『マフィア国家――メキシコ麻薬戦争を生き抜く人々』(工藤律子、岩波書店、2017)



長くメキシコの子どもや若者たちにかかわってきた著者による、最新のルポ。麻薬戦争の街を訪れ、弱者を飲み込んでしまう暴力の実態を取材する。目をそむけたくなる事実が突き付けられるが、著者は決して逃げることなく、暴力の被害に遭った家族にとっては「自分たちの戦いの目撃者との連帯が必要なのだ」と語り、今も行方不明者の捜索などの行動を続けている現地の人々の姿と思いを伝える。


<5月号で紹介>

『増補新版 家庭で作れるスペイン料理――パエリャ、タパスから地方料理まで』(丸山久美、河出書房新社、2017)



スペインに14年間暮らしていた著者による、家庭料理のレシピとエッセイ。レシピはスペイン料理ならではのポイントを外すことなく、日本の家庭でも作れるような具体的な方法が説明されている。巻末の「基本の食材とその活用術」は一読するだけですぐにその実用性を感じられる。バルのこと、お菓子のこと、お祭りのこと、などのエッセイには写真もふんだん。2011年刊行のベストセラーの増補新版。


『カストロ(上・下)』(セルジュ・ラフィ著、神田順子・鈴木知子訳(上巻のみ)、清水珠代訳(下巻のみ)、原書房、2017)





2016年にその生涯を閉じたフィデル・カストロ。本書は、長くキューバという国の頂点に立ち続けた彼の半生を幼少期から描き出した、フランス人ジャーナリストによる労作。その中身は「はじめに」からして既に、一部の読者には衝撃を与えうるものである。上下巻を通じて、キューバ革命のカリスマと呼ばれた人物像を多方面から浮き彫りにする。


『ラテンアメリカ五〇〇年――歴史のトルソー』(清水透、岩波書店、2017)



先住民の老女が地べたに座って民芸品を言っているその横を、リュックにスニーカー姿の男性が大股で通り過ぎようとしている。著者によって老女の目線と同じ高さから撮影された表紙の写真は、この本の内容を象徴的に表している。著者は長年、メキシコでのフィールドワークを重ね、ヨーロッパによって「発見」された側に寄り添いながら考察を続けてきた。全17話の講義録は、私たちの歴史観を大きく揺さぶり、世界の見方を問い直す。



<6月号で紹介>

『ガウディ完全ガイド』(オーローラ・クイート、クリスティーナ・モンテス著、西森睦雄・安藤宗一郎・根本玲子訳、エクスナレッジ、2017)



言わずと知れたスペインの建築家、ガウディ。文章と写真で、ガウディの生い立ちや人柄から作品における哲学まで、すべてが分かる一冊。掲載されている18の建築作品はすべて美しく、個性を主張するその姿に圧倒される。写真はオールカラーで、特に「ガウディの夜景」と名付けられた一章はうっとり眺めたくなる。作品の細部を撮影したものも多く、どのページも見ごたえ、読みごたえたっぷり。


『消えたベラスケス』(ローラ・カミング著、五十嵐加奈子訳、柏書房、2018)



実在の人物ジョン・スネアをめぐる数奇な物語。英国で書店を営んでいたスネアは1830年代に1枚の肖像画を手に入れた。チャールズ皇太子を描いたこの絵を、彼はベラスケスの手によるものと信じて疑わず、そのことが彼を窮地に追い込む。著者は様々な資料を手掛かりに、スネアの人生を丹念にたどると同時に、ベラスケスや絵のモデル、当時の宮廷の様子を丁寧に描いている。ベラスケス作品の案内書として読むのも良いだろう。


『マルコとパパ――ダウン症のあるむすことぼくのスケッチブック』(グスティ著、宇野和美訳、偕成社、2018)



息子であるマルコが生まれたときのことを、アルゼンチン出身のイラストレーターであるグスティはこう表している。「こんなのうけいれられない」。思い切り太い、真っ黒な字で。マルコはダウン症だった。でも、やがて「いいんだ!この子はこのままで!」というカラフルな文字の言葉が現われ、家族の気持ちや毎日の生活が描かれる。グスティの「ほんものの愛」に至るまでの道のりは、まぶしくて目を細めたくなるほど、誠実で温かい言葉とイラストに彩られている。 


<7月号で紹介>

『キューバ・キューバ』(藤田一咲写真・文、光村推古書院、2017)



コンパクトなサイズの紙面から、色彩と現地の生活感があふれ出してくる写真集。ハバナ、トリニダー、サンティアゴ・デ・クーバ、バラデロの各都市で撮影された写真は、どれもポストカードとして飾りたくなるような絶妙なショット。建物も車も人も、みんな撮られるために存在しているのではないかと感じさせるのが今のキューバで、この風景が急速に変わりつつあるからこそ、作者は写真に残したいのだと願ったのだろう。


『外の世界』(ホルヘ・フランコ著、田村さと子訳、作品社、2018)



企業家で大富豪のドン・ディエゴが誘拐される。犯人グループのリーダー、エル・モノはかつて、ドン・ディエゴの娘イソルダに思いを寄せていた。さらには、ベルリンを舞台にした若き日のドン・ディエゴの恋という、複数の物語が時間軸を交錯させながら滑らかに進む。メデジン市で実際に起こった事件をもとにして語りをフィクションに転換した、コロンビアの作家ホルヘ・フランコによる傑作長編。


『ぼくを燃やす炎』(マイク・ライトウッド著、村岡直子訳、サウザンブックス社、2018)



スペインの人気ブロガーが書いたヤングアダルト小説。主人公の高校生、オスカルは同性愛者で、それを理由に学校では過酷ないじめに遭っている。自傷行為を繰り返してしまう日々だったが、柔道教室で青年セルヒオと知り合い、生活が変わり始める。恋愛における心理描写が秀逸で、友情や自立、成長といった要素がふんだんに盛り込まれた青春ストーリーでもある。セクシャル・マイノリティが誇り高く生きるための「プライド叢書」の1冊目。


<8月号で紹介>

『日本人の恋びと』(イサベル・アジェンデ著、木村裕美訳、河出書房新社、2018)



老人ホームで暮らす80歳を超えた女性、アルマ。お世話をするイリーナは、アルマに愛人がいるのではないかと疑い始める。彼女が大切にしている写真の男性はイチメイ・フクダという日本人名で、イリーナは、半世紀を超える二人の愛の軌跡をたどることになる……。世界中に読者を持つイサベル・アジェンデの新作は、複数の人間によって交錯する愛と友情に、老いという現実を織り込んだ名編。


『家』(パコ・ロカ著、高木菜々訳、小学館集英社プロダクション、2018)



1969年バレンシア生まれの漫画家によるコミック。父親の死から時間が経ち、休暇を過ごすために若かったころの父親が建てた家を、ビセンテ、ホセ、カルラの兄妹は持て余してしまう。売る決意をして少しずつ家を片付ける作業は、それぞれにとって、家族の記憶と父親の思い、そしてその死に改めて向き合う時間となるのだった。全編カラーで、作者自身は「作り込まないさりげない構成」と語るが、陰影が印象的な、端正な漫画である。


<9月号で紹介>

『バルパライソの長い坂をくだる話』(神里雄大、白水社、2018)



著者はペルー生まれの作家、演出家であり、演劇団体「岡崎藝術座」を主宰。この書籍には第62回岸田國士戯曲賞を受賞した表題作を含む3本の戯曲と、エッセイが収録されている。東京から沖縄、そしてペルー、パラグアイ、チリ、アルゼンチンと、各地での取材や旅行の経験により生まれたと著者が語るこれらの作品は、身体をその場所に刻みつけるものとして、言葉が振り絞られている。


『ラテンアメリカ傑作短編集<続>-中南米スペイン語圏の語り』(野々山真輝穂著、彩流社、2018)



2014年に本編が刊行された短編集の続編。今回はラテンアメリカ文学ブームの中に位置づけられる作家から、ポスト・ブームの作家が主に取り上げられている。10か国16作品の中には日本初紹介の作家も5人含まれる。語りの口調はおとぎ話風の物からホラーのようなものまで、また翻訳の文体もさまざまだが、ほんの数ページずつで次々と人間の本性が暴かれていくのがこの短編集の痛快なところだろう。

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読んでみたい、手にしてみたい、と思った本はありましたか? その2(2018年9月号~2019年3月号)に続きます! →<その2へのリンクはこちら>